2009年度活動スケジュール







↑TEZZO by Tetsuya Ota



↑太田哲也KEEP ON RACING


TEZZO RACERS CLUBレポート  

by廣畑実


6月24日 
アルファチャレンジ東北シリーズ第2戦 レポート

会員No.106 廣畑実 
車種:アルファロメオGT 2.0
参加内容:走行会,オプション(サーキットメンテナンス)

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僕のサーキットデビュー


サーキット デビュー(その1)

「カーレース」「サーキット」。子供の頃から好きだった。

どの選手が好き、とか応援してる、とかっていうのは別になかったけれど、テレビで中継やってると、とにかく観た。

でも、僕と彼らは全然違う次元の世界に生きてる人で、例えば、二次元の世界と三次元の世界に住んでるぐらいの違いがあって、僕にはそんな世界はきっと、夢のまた夢だと思っていた。いや、むしろ、夢に見ることさえできない世界だと思っていた。

だから、この歳(よそじ)になるまで、サーキットで車を走らせるなんて当然経験ないし、サーキットに足を運んだことさえなかった。

それが、ひょんなことから、少し身近になれるチャンスが到来した。雑誌で見た記事だった。雑誌はAlfa & Romeoだったかな。そもそもこの雑誌、アルファロメオ乗りになった1年半前まで、その存在さえ知らなかったのだから・・・。

「おやじレーサーズ募集中。希望者はe-mail送れ」

その記事を見た当日、突き動かされるように、e-mailを送った。異次元の、これまで縁のなかった、でも、ずっとずっとあこがれていた世界を垣間見たい。そんな内容のe-mailだったと思う。

別に返事はなかった。返事なんて期待さえしていなかったのかもしれない。夢でさえなかった世界だもの。僕は、すぐに現実にもどって、そんなe-mailを送ったことさえ忘れ、日々の生活をおくっていた。日々の生活で手一杯で、異次元の世界なんて眼中になかった。

そんな日常の、いつものe-mailチェックの中に、唐突に、返事があった。

「貴方がクラブメンバーとして承認されたことをお知らせします。」

実感なんて何もわかなかったけれど、夢でさえなかったことが、少なくとも夢にはなったような気がした。






サーキット デビューその2

「6月24日、仙台ハイランドの走行会に参加しませんか?」

オヤジレーサーズ、改め、「TEZZO RACERS CLUB」(う〜ん、かっこ良過ぎ。「オヤジレーサーズの方がなじみ易いなあ。)に入会できた僕に、ある日、事務局からそんなe-mailが来た。

6月24日?お!その日はホッケーの試合もない。その日のうちに返事した。

「是非!」


仙台は遠い。24日朝7:30集合、ということは、前泊必須。でも、仙台までは片道5時間以上。転職してまだ2ヶ月の僕は、毎日終電で帰るか終電もなくなってタクシーで帰る日が続いている。金曜とは言え、平日に、5時間も運転する余力があるだろうか。

よし、23日は何がなんでも6時に会社を出て、家に帰り、すぐ出発。深夜には仙台に着くだろう。早速、会社の自分のスケジューラーに6時退社、と書き込んだ。これで万全だ。用意周到な計画だった(どこが?)。

結局仕事が終わったのは8時。その前日は終電で帰って深夜2時の夕食のため、前の日の睡眠時間は3時間だった。しんどいな〜。

金曜夜9時半。1週間眠らせていた愛車、Alfa GT 2.0のエンジンに火を入れる。いつもの官能的なエンジン音だったが、僕のカラダのエンジンは波打っていた。

これから始まる5時間のドライブに、ではなく、さて、この愛車がどんな姿でこの車庫に帰ってくるんだろう、クラッシュでボロボロだろうか、「走行会」ってレースじゃないんだよな、でも、きっとみんなで一緒に走るんだよな。コーナーどうすりゃいいんだ。なんて想像でどきどきしていた。

5時間の長丁場。ほとんどをクルーズコントロールで走行した。ラクチン、ラクチン。道路はどこも渋滞なく、スムーズな走行。前日の睡眠時間3時間の上に、それまでの平日の仕事のせいで、結構疲労していたが、途中2回の休憩以外、走り続けた。途中、ちょっと眠くなり、カーナビの歌声にあわせて歌う。島谷ひとみの歌はむずかしい・・・。

宿には2時過ぎに到着。風呂に入ってビールを一杯。あれ?最近のお気に入り、サントリープレミアムモルツを買ったと思い込んでいたら、エビスビールだった。やっぱり舞い上がってる。

さて、明日は6時起き。3時間しかないぞ。早速寝よう。オヤスミ!

だめだ。寝られない。夢でさえなかった、異次元の世界の一端に入る、という興奮、僕の愛車はどうなっちゃうんだろう、という不安。金曜日になって上司から与えられた課題に来週どうやって応えようか。なんてこと考えてしまって、朝を迎えてしまった。せいぜい、うとうとした程度で完全に徹夜した。

ヤバイ。

でも、とにかく腹ごしらえ。昨夜のうちに買っておいたサンドイッチを、ぬるくなったカフェラテで流し込む。

朝のテレビを見ている間は、走行会に対する不安も、徹夜してしまった後悔も、全て忘れてリラックスした。

朝、駐車場で太田さんに初めて会う。ああ、僕が「クラッシュ」で感動したその本人が僕の目の前にいる。これまで異次元の人たちと思っていた人たちが、僕の目の前を歩いている。これを「感動」という一言で片付けてしまうにはあまりにも惜しいが、その他に言葉がみつからない。

「はじめまして。よろしくお願いします。」ああ、語いの少ない僕には、そんな月並みなことを言うのが精一杯だった。

眠気や疲労は感じなかった。感じる余裕なんかなかった。

サーキットに向けて出発した。いよいよ、異次元空間に突入する!




サーキット デビュー その3

パドックに集合した。「パドック」?「ピット」?み〜んな、これまで観たレースのテレビに頻繁に出てきた言葉。異次元の空間。僕は今、その前にいる。車は、その中にいる。冷静に考えれば、コンクリートブロック造の安普請な建物だが、そんなこと、今の僕には気にもならない。

教えられるがまま、ヘッドライト、ウィンカー類に、破損時の飛散防止のためのビニールテープを貼る。がんじがらめに貼っていたら、メカの方に「そこまではしなくても大丈夫ですよ」、と優しく声をかけられた。

「へ〜。」今日一日、何度この「へ〜」をひとりごつのだろうか。トリビアの泉の一番組分の全回答者の「ヘ〜」を集めたって足らないかもしれない。

メカニックの方にエンジンルームや足回りをチェックしてもらう。ブレーキフルードがMAXを超えていて、よくないらしい。ディーラーの整備工場が入れたものなのだが、これだけ入れていると、サーキットでは吹いてしまう可能性がある、とのこと。注射器で吸っていただき、余りは捨てて頂いた。

太田さんが、僕のどノーマルのGTを見て一言。「早くなるような改造はまだしなくていい。最初に手をつけるとしたら、安全面を考えてブレーキパッドをサーキットで耐え得るのに換えたら」と、言っていた気がする・・・。なるほど、太田さんらしいコメント、だと思った。


ドライバーズミーティングが始まった。今日の走行会はオヤジレーサーズ以外にも初心者が多い。「経験者は、気を遣ってあげてください。」と、主催者からのお心遣い、というより、ほんとにそうしていただかないと危なくて仕方がないのだろう。

伊藤真一さん、という方が呼ばれた。アルファロメオチャレンジ東北の主催者である、グースネック宮城の社長らしい。「へ?」伊藤真一?確か、ホンダのワークスライダーで「シンデレラボーイ」って言われてた人って、伊藤真一、て名前じゃなかったっけ・・・。顔?似てる・・・。グースネック宮城の社長??アルファロメオ?頭がウニだった・・・。(家に帰ってから調べたら、やっぱりそのとおり。伊藤真一さんは今も超一流現役レーサーでした。知らない、ということは恐ろしい。)異次元人現る・・・。

その他、旗の意味(黄色一本、黄色二本、赤、赤黄、白、緑、黒、黒地にオレンジ・・・・)や、その他の注意があった。太田さん、「あまり言ってもわからなくなっちゃうでしょうから、今日はこの辺で止めておきましょう。」

その後、太田さんを囲んで、オヤジレーサーズのミーティング。太田さんから、「旗の意味わかった?赤い旗は何?」と僕に質問。いつもの僕なら、レースを何度も観てるから、「レース中断、ピットに帰れ。」って冷静に答えられる。でも、言い訳言うようだけど、サーキットデビュー直前でただでさえ舞い上がってるのに、あの、太田哲也さんですよ!私に質問をしているのは!「クラッシュ」読んで、涙がちょちょ切れ(四十路は語いも四十路だ。)た、あの、太田さんですよ!冷静に回答できるわけないじゃない。

「え〜っと、じょ、徐行か、かな??」あ"〜!僕のバカ、バカバカバカ。あの太田さんに、なんてアホな回答を、なんつ〜カミカミで言うの!めげた・・・・。

2号車ワークスの江刺家さんに質問した。「あの〜、走行会中って、やっぱりエアコンは切っておくべきなんでしょうか。」素朴な疑問だった。だって、プロレーサーってみんな猛熱の中で運転してる、ってテレビが言ってたから。江刺家さんが優しく回答してくれた。「つけてていいですよ。エアコンあるないで、コンマ数秒違ってきますが、現状ではそれは気にしなくていい。むしろ、エアコンなしで疲労して集中力を欠いてしまう方が大変です。」なるほど〜。本日、30回目ぐらいのへ〜だった。他にもへ〜はいっぱいあったが全部は書ききれないので省略。それにしても、この異次元人たち。みんな優しいな〜。


さあ、走行会の時間。マスクをかぶり、ヘルメットをかぶり、グローブを着け、座席に乗り込む。視界狭っ!前見てたら手元のシフトノブ見えないじゃん。

一週目は太田さんの車にカルガモの親子よろしくみんなでついていって、ライン取りを教えてもらえる。太田さんから「集合時間は時間厳守」という注意もあったので、パドック早めに愛車に火を入れる・・・・。入れる・・・・。入れる・・・・。あれ??あれ??あれあれあれ?????トラブル発生!!あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ!僕は完全にパニックになった。そんなパニックになりながら、テレビで何度も観た、スターティンググリッドでスタート直前にドライバーが両手を挙げる、そんなシーンが僕の頭をかけめぐった。

あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ!






サーキットデビュー その4

そう。いつものように、僕は愛車に火を入れるべく、キーをひねったんだ。でも、なんの反応もない。セルが回る音がしない。そう言えば、メーターのインフォメーションパネルも、点灯していない。普段なら、「あれれ〜。」で終わるが、太田さんの「時間厳守」が頭に残って、「あれあれあれあれ」の状態になってしまった。

待て待て。きっと、ブレーキを踏んでいないに違いない(この時点で、メーターのインフォメーションパネルが点灯していないことの重大さに気がついていないぐらい動転している。)ブレーキペダルをしっかり踏んで、キーをひねって・・・・・・。静寂の時が流れた。その静寂の時間は、今から思えばきっと、1秒もなかったに違いない。でも、その時の僕には、パニックでそんな時間の感覚さえ忘れていた。繰り返し、繰り返し、キーをひねった。繰り返し、繰り返し、ブレーキペダルを踏みしめた。でも、僕の愛車は、仙台サーキットの安普請のパドックに、静かにたたずむだけだった。

ドアを開けた。隣は太田さんのレーシングカーのパドック。ヘルメットを取るのも忘れ、メカニックの方に叫んだ。「すいませ〜ん、エンジンがかかりません!!!」すぐに見てくれた。ボンネットを開け、バッテリーにチャージャーをつないで、冷静に、でも迅速に。どのぐらいの時間だったんだろう。僕には永遠のように感じられた。そして・・・。「ぶぉん!!」僕の愛車は息を吹き返した。

メカニックの方に何か説明をしていただいたが、今となっては何も覚えていない。そのぐらい頭は真っ白だった。

「ありがとうございました。行ってきます。」とだけ言い置いて(なんて失礼な!)、頭ウニ、顔面硬直、体ガチガチの四十路ドライバーは、車をパドックからピットロードへと移動させた。

もちろん、太田さんとオヤジレーサーズの仲間はもういない。パドックからピットロードへの出口から、コースへ入るまでには自分のピットの前を通過することになる。自分のピットの前まで来たら、オヤジレーサーズ世話役の金子さんが、両手の平を下にして、「スピード抑えて安全にね。」というような合図を送ってくれた。そう。僕の頭は完全パニック。金子さんはそんな僕に気遣いを忘れない。ああ、異次元の人たちは何故こんなに優しいのか。おかげで少しパニックも癒え、僕はピットロードからコースへと向かった。

折角、太田さんの後について、コースのライン取りを勉強できるはずだったのに、僕の目の前にはあまりにも広大なコースが広がっている。僕の目の前には誰もいない。

「ええい、ままよ!」僕はとにかくコースに出た。ドライバーズミーティングで注意された、「ピットロードからコースへの進入口に出たら、とにかくアウト、アウト、アウトで3コーナーまで行ってください。いきなりインに入ると後から来る車に衝突されてしまいます。」という言葉だけは、かろうじて覚えていた。

3コーナーまで、アウト、アウト、アウト。僕は、自分に言い聞かせながら、アウト側の縁石ぎりぎりに車を寄せて、トボトボと走った。そして3コーナーが来た。え?え?え?これからどうするの?

レースはテレビで何度も観た。コーナーなんて、アウト・イン・アウトじゃん。そ〜んなの知ってるよ。と、思っていた。少なくとも、自分でこのサーキットで運転するまでは。でも、テレビで上の方から見るコーナーと、自分で走る横から見るコーナーとは、月とすっぽん、かえるのつらにしょんべんだ。

アウトのどこがアウトなのよ。インって、内側のどこがインなのよ。どう走っていいのかわからず、とにかく走った。途中、大きなカーブ。どこをどう、アウトインアウトしていいかわからず、僕はイン・イン・イン・イン・イン・イン、と永遠と内側にへばりついて走った。

直線に入った。とにかく、一周が終わった。ピットが見える。旗は?出ていない。直線に入ったら、旗を見ろと言われたっけ。少し、パニックから脱出してきた。

2週目に入った。テレビを思い出して、なんとかそれぞれのコーナーを回ってみた。でも、コーナー途中でどれだけアクセルを踏んだらいいのかわからない。次々と後から車が迫ってきた。ひえ〜!!追突しないでね。「後から車が来ても、自分のラインを走ってください。道を譲ろうとして急ハンドルを切ると、かえって衝突します。」くわばらくわばら。やっとローンの終わったこの車。やっと、名義が信販会社から自分に変わったこの車、ポンコツにしてなるものか。でも、自分のラインなんてないから、とにかくゆ〜っくり、道を譲って先に行ってもらった。


そんなこんなしてるうちに、後から迫る赤い車。「あれ?」アルファGT?あ、太田さんだ!と気がついたらいつの間にか太田さんのGTは僕の前にいた。しめた!この車の後についてこい、っていう意味だ。きっとそうに違いない。遅れた僕に、ライン取りを教えてくれようとしているんだ。僕はまた感動した。どうして、いちいち、この異次元人は、さりげなく優しいんだ。

僕はついていった。いや、ついて行こうとした。カルガモ親子よろしく後にぴったりと・・・。無理ですがな・・・。ついていけません。コーナーひとつはなれちゃうと、太田さんがどのラインを取ったのかもみられません。太田さんは明らかに僕を待ってくれている。僕の
すぐ後には、オヤジレーサーズが、僕についてきている。僕が太田さんのラインを正確にトレースしないと、みんながトレースできなくなる。迷惑がかかる。僕はあせった。待ってくれる太田さんに。後についてきているオヤジレーサーズのみんなに。

僕はアクセルを踏んだ・・・・と思ったら、ピットロード入り口にさしかかり、太田さんがピットに入っていく。僕らも後についていった。ピットに入った。世話役の金子さんが誘導してくれた。ピットに着いたら、メカニックの方がタイヤの空気圧をチェックしてくれた。

僕の、サーキットデビューだった。サーキット・デビューは今始まったばっかり。これからだった。

その後は、太田さんは引き揚げ、僕らオヤジレーサーズは思い思いに走った。太田さんは、スピードメーターも見てみれば、と言ってくれたっけ。最高時速がどれぐらいかを見るように言ってくれたっけ。よし、ホームストレートだ!アクセルを床まで踏んだ!メーターがどんどん上がる。120、130、140、よしもっと!と思ったら、1コーナーだった。げ!目の前は砂利だ!げ!げ!げ!げ!げ!ブレーキブレーキブレーキブレーキ、げげげげげげげげげげげげげげげげ!!!!!!!!!!!!!砂利だ砂利だ砂利だ砂利だ!おゎ〜!!!!!!






サーキットデビュー その5

1コーナー、目の前は砂利、僕の愛車はまっすぐ飛び込んでいった。と、ブレーキは間一髪、前輪をたぶん、縁石に乗り上げるか乗り上げないかの直前ぐらいで車を思いとどまらせ、超スロースピードになった僕の愛車はハンドルの思うままにほぼ90度に右に向きを変え、なんとか1コーナーを曲がることができた。

「ほえ〜〜。」出たのは大きなため息だったが、次々と後続車が来る中ではへたり込むわけにもいかず、次のコーナーへと気を取り直してまた必死に運転を続けた。

ショック療法で、僕は少し冷静になった。少なくとも、なった気がした。そうすると、気がついた。どんなにアクセル踏んでも速くならないな〜、と思ったら、タコメーターは既にレッドゾーン。僕はそれにまったく気がつかないまま2速でアクセルを踏み続けていた。

初めてヘルメットをかぶって運転している僕には、実は、エンジン音はほとんど聞こえていない。耳を完全に塞がれているような状態だった。普段運転しているときは、いつも、タコメーターというよりは、音の感覚でエンジンの回転数を感じていた僕は、ヘルメットで耳を塞がれた状態で、エンジンの回転数を気にしないままアクセルを踏んでいた。まして、走行会開始前に、太田さんや江刺家さんから、「セレスピードのギアチェンジは、パドルシフトではなく、スティックを使いましょう。パドルシフトだと、ハンドルが回っているときに、わけがわからなくなりますよ。」とアドバイスを頂いたため、まったく使いなれないスティックで、前がシフトアップ、後がシフトダウンと自分に言い聞かせながらも、何度も何度も間違って、逆方向に動かしていたことがめちゃくちゃな運転に拍車をかけていた、ということに気がついた。

それでも、必死で運転した。後から迫り来るばかっぱやの車に脅威を感じながら、自分なりに、必死でアクセルとブレーキを操作した。何度も何度もレブリミッターがかかりながら・・・・。

突然、息苦しくなってきた。呼吸ができなくなったようだった。いくら呼吸をしても新鮮な空気が入ってこない、何故かそんな感覚に陥った。く・・・・・苦しい。「は〜、は〜、は〜、は〜。」僕は呼吸困難の中、とにかくピットに帰ろうと思った。ピットロードの入り口を探した。ピット・・・・どこ????

あった、あった。ピットロードに入った。すると、丁度午前中の走行会の終了時間間近であったため、係員によってパドックの方に誘導された。

そんなこんなで、午前中の走行会が終わった。パドックに車を入れ、ヘルメットとマスクを大急ぎではずした。「ぷは〜〜。」空気を肺にいっぱいいれた。江刺家さんに、「苦しくなっちゃいました。」って言うと、「きっと、夢中になって息を止めちゃったんじゃないですか?そんな時は深呼吸したらいいですよ。」とアドバイスを受けた。そう、確かにそうかもしれない。僕っておばかさん。

アルファロメオチャレンジの予選が始まった。キープオンレーシングチームから、太田さん、江刺家さん、オヤジレーサーズから中島さん他2名が出場。「速っ!」やっぱりこの人たちは異次元人だ。思い知った。

思い思いにお昼を過ごしている中、午前中の走行会の成績発表。僕は、栄えある最下位だった。3分台は僕だけだった。恥ずかし・・・・・。でも、別によかった。はっきり言おう。これは負け惜しみだ。負け惜しみながら、声を大にして言おう。コースデビューできたんだもの。それでいいよ。シフトレバーに慣れていない、という言い訳もあるし・・・。

青木拓磨さんが太田さんを訪ねてやってきた。そう、あの、バイクレースの全日本チャンピオンで、世界でも4位となった後、事故に遭い車椅子生活となってしまった、あの、青木さんだ。僕は、それぞれの選手について詳しいわけではないけれど、青木さんの存在ぐらいは知っていた。出た〜。また、異次元人の登場だ。もう、たたみかけるように異次元人が出現する。ちゃっかり一緒に写真をとってもらった。

さて、午後の走行会が間もなく始まる。広報の隠岐さんから、午後一本目は、太田さんが運転するアルファGT2.0の助手席に乗って、太田さんのラインを勉強するように言われた。ぬゎに〜!太田さんの横に乗れるの!!!すご過ぎる。異次元人と同じ車に乗れる!しかも助手席!!緊張する!

マスク、ヘルメット、グローブを装着し、太田さんの車の助手席に乗った。太田さんが優しく、「ライン取りを見ていてくださいね。」と声を掛けてくれた。

今、まさしくスタートせんとする瞬間、太田さんが叫んだ。「メカニック呼んで、メカニック呼んで!何これ、ランプついてる!」

ん?と見ると、太田さんが言ってるのは、スピードメーターの中に光るグリーンのランプだった。どうやら、太田さんは、オートクルーズを知らないらしい。当然か。使ったことなんてないんだろうな。「あ、これ、オートクルーズです。ここをこうやるとオフになって消えます。」と伝えた僕。いや〜、太田さんに車のこと教えちゃった。「え、そうなの。」と答える太田さん。

そんなちょっとしたかわいいトラブルの余韻を引きずるわけもなく、車はするするとスタートし、コースに出た。

ひょえ〜!!!!!!!!!!やっぱり異次元だ!!





サーキットデビュー その6

今、僕は、異次元人太田さんの車の助手席に乗っている。ドキドキしていた。きっと、大変なことになると思って、ドアのグリップをしっかり握って用意した。

車はするするとスタートした。と、コーナーを次々と回っていく。太田さんが手で、コースのこっち、コースのあっち、と、ライン取りを丁寧に教えてくれている。僕は、うなずくので精一杯だった。

え?これ、この車、僕の愛車と同じ、GT2.0なの?おかしい!!Gを感じる。僕の車では体験できない、加速時のGを感じた。シートに背中が押し付けられた。「すっげ〜!!」。感心してる場合じゃない。折角教えてくれているんだから、しっかりライン読まなきゃ!でも、各コーナーでは右に左に体が「揺れる」ではなく、「移動する」!センターコンソールの灰皿横のひざあてパッドがなんと役に立つことか!僕は両足をめいっぱい広げ、右足はひざあてパッドに、左足はドアに密着させて、できるだけ体を動かないようにしてひたすらライン取りのポイントを見つめた。

僕の運転とは、当然だが、全然違う。恐ろしいほど違う。後輪が時々ズリっと横にすべるのを感じながら、ひたすら、ひたすら、ラインを見た。ゆるいカーブは直線に、きついカーブは思いのほか奥までまっすぐ進んで、クイっと向きを変えてまわっていく。おおお〜!!!これがラインだ!!!こんな、後輪ずりずりなんて、とてもじゃないけど真似できないけど、このラインはとっても勉強になった・・・なった気がした。

無我夢中だった。後で聞いたら、オヤジレーサーズの他の人はハンドルさばきやギヤさばきを見ていたらしいが、僕にはそんな余裕なかった。ひたすらラインを見ていた。凝視していた。何かの拍子に、太田さんの足元を見た。両足を使っていた。右でアクセル、左でブレーキ。太田さん独特のテクニックなんだろうか。それとも、こうすべきなんだろうか。今度聞いてみよう。そして、意外にも、その両足は、流れるようにしか動いていなかった。僕なんか、踏んだりはずしたり、忙しくてたまらないのに、僕には太田さんの足がゆっくりゆっくり動いているようにしか見えなかった。

2分余りの二人きりのデートは終わった。僕らはピットの前にいた。僕は、たまらなく興奮していた。そして、今見たラインを牛が草を食べるように反芻していた。モグモグモグ。


さて、今見たラインを活かすぞ!!僕はパドックで待つ僕の愛車に乗り込み、太田さんよろしくするするするっとコースへとなめらかに車を誘導した・・・・するつもりだった・・。


現実は違った。「まただ・・・・」。キーをひねってもウンともスンとも言わない。あ〜、またか。パニックにはならなかった。でも、何でよりによってこんな日に・・・。チームのチーフメカニックのナミキさんがいろいろ見てくれた。バッテリーは生きている。でも、どこかで電気が来てない。仕方がないのでギアをニュートラルに入れ、車をパドックから移動した。2メートルぐらい出したところで、運転席にいたナミキさんが言った。「あれ?かかるぞこれ。」ナミキさんがキーをひねった。「ブオン!」何事もなかったかのように、僕の愛車はよみがえった。ナミキさんも、やっぱり異次元人だった。治しちゃった。ナミキさんから、説明を聞いた後、感謝の言葉を述べ(たかな?ナミキさん、ありがとう!)、「とにかく走ってきます」と言ってコースに出た。

よ〜し、太田さんのラインも勉強したし、ブンブン行くぞ〜!!まずは、3コーナーまでラインをゆずってアウトアウトアウト。そして、自分のラインに切り替える。よっしゃ〜!!!でも、やっぱり後からばかっぱやの車が次々と迫る。え〜ん!頼むから、ぶつけないでね!お願い!!ひやひやしながら道を譲る。道を譲る必要ない、と言われているけど、やっぱり気になる。

途中、S字カーブで砂利が出ていた。あれ〜、誰か突っ込んだかな、と思ったら、次のコーナーを立ち上がったところで赤旗が出ていた。「レース中断。ピットに帰れ。」そう、僕が午前中、太田さんの「赤旗は?」の質問に、カミカミで「じょ、徐行か、な?」なんてアホな答を言ったしまった赤旗だった。

直前に僕を追い越した車のすぐうしろについて、ピットに帰った。オヤジレーサーズのみんながピットに帰ってきた。すると、太田さんが、「みんな来て。ミーティング。」と声をかけた。

太田さんを囲んでオヤジレーサーズが輪になった。太田さんが言った。「どう、みんな楽しい?」アホな僕は「とっても楽しいです。」と、バカ丸出しで言った。

そして、太田さんは、オヤジレーサーズのメンバーに、意外な言葉を放ったのだった。






サーキットデビュー その7

「みんな来て。」の太田さんの一声に、オヤジレーサーズのメンバー達は太田さんのまわりに輪になった。

「どう、みんな。楽しい?」太田さんの、いつもの優しい問いかけに、僕はバカ丸出しで答えてしまった。「とっても楽しいです!!」ホント、今考えてもなんでそんなアホな答え方しかできなかったんだろう、と思うくらい、アホな回答を、よりによって、身を乗り出して言ってしまった。

太田さんは、そんなアホな回答を予期していたかのごとく、極めて冷静に、でも、いつもの異次元人の優しさで言ったのだった。

「もうそろそろこの辺で止めておいた方がいい。ちょっと物足りないな、と思うかもしれないけど、そろそろみんなも、自分では気がつかないだろうけど、疲れているし、でも、気分は高揚していているだろうから、こんな時に一番事故を起こしやすいんだ。いい?僕はここでみなさんに釘を刺しておくからね。」

この異次元人は、僕らの状態をお見通しだった。僕が太田さんに言われたそのまんまの状態であることは、ブログを読み返して頂ければすぐにわかる。そんな状態だった。

「げげっ!なんでわかるの!」僕は、本当に、あらためて、太田さんという異次元人の存在に感心した。何でもお見通しだ。僕は、そんな太田さんの前で、「とっても楽しいです。」と、まったくアホな回答をしてしまったことをつくづく後悔した。とっても恥ずかしかった。午前中は、「じょ、徐行か、な。」とカミカミの誤回答。午後は、「とっても楽しいです。」とアホな回答。まさに太田さんが待ち受けていたかのごとく、「ボケ」を発揮していた。ま、いいか、それが、とりあえずの役回りか、と、今さらながらに負け惜しみを考えながらブログをアップしている僕・・・・・・。


その後、赤旗も解除され、オヤジレーサーズのみんなはコースに戻っていった。僕のGTは、例のエンジンストップを恐れてエンジンをかけっぱなしにしてあったので、僕もすぐにコースに戻ることができた。僕は、太田さんの言葉が頭に残っていたので、じっくりじっくりコースを見ながら、でも、なるべく早くコーナーを回る工夫をすることに専念した。楽しかった。ホッケーのチームメンバーには申し訳ないが、これだけ今の自分のやっていることに熱中できるのはホッケーとは比べものにならなかった。だって、ホッケーの試合中は、待ち時間があって、良からぬことを考えてしまうんだもの・・・。


2周ぐらい回って、気分を落ち着かせるためにピットに戻った。しばらく休憩して、また出発しようとしたら、丁度チェッカーフラッグだった。ちょっと物足りなかった。でも、太田さんの言うとおりだから、それでいいんだ、と思った。だって、僕のGTは、なんの傷もなく、走行会を終えることができたのだから。それだけでも大満足だった。

こうして、僕のサーキットデビューは終わった。午後の走行会のリザルトも発表され、僕の最下位が確定した。スズキのカプチーノより遅いアルファGT。確かにかっこ悪いし、恥ずかしいけれど、負け惜しみ半分ではあるが、そんなに悔しくはなかった。だって、楽しめたもの・・・・・。半分は負け惜しみだ。これは断言できる。悔しくないはずがないもの。

午後のアルファロメオチャレンジの決勝を観戦した。太田さんは総合4位、MRクラス1位、江刺家さんは総合2位、SRクラス2位。だった。異次元人の速さは並大抵ではない。オヤジレーサーズの中島さんは途中でパンクしてリタイアした。悔しそうだった。ここで書くと、ついでみたいになってしまうが、中島さんが作ったレタスとトマトのサラダはおいしかった。塩と胡椒をばさばさ入れた男の料理だけれど、この人、料理の才覚あるわ・・・。僕はたぶん、大量に中島さんが作ったサラダの半分か3分の1ぐらい食べてしまったと思う。次は僕も何か作ろう。


帰り道、反省会があった。太田さんはここでも大したことを言う。この人、ホント、何者なんだろう・・・。
「僕は、みなさんが、他の走行会やレースに参加することはまだお薦めしません。レースには、僕が大丈夫だと認めた人にしか出て欲しくない。事故につながるから、クラッシュを絶対にさせないよう腕を上げていきましょう」
というような言葉だったと思う。太田さんはつくづくすごいわ・・・・。そういうこと言われなければ、アホな僕は、太田さんが想像したとおり、富士かどこかの走行会に調子に乗って参加していただろう・・・。

反省会の後、チームは解散し、それぞれの帰途についた。僕も、連日の残業と前の日の徹夜と、当日の疲れがいっぺんに出て、どうしてもたまらなくなって、途中のパーキングで30分ほど爆睡した。僕は結構神経質で、完全無音かつ無光の環境でしか寝られないのに、今日ばかりは、高速道路を走る車の音を気にもせず、ぐっすり寝てしまった。


早速翌日、ディーラーに車を見せにいった。一週間入院することになった。


これで、僕のサーキットデビューは、本当に、終わった。でも、この話には「オチ」があるんだ。


サーキットデビューの興奮覚めやらない翌日の日曜日、僕は長年来の友人と夕食を共にした。とても親しくしている友人なのに、お互いに忙しくてなかなか会えなかったから、お互いの近況報告で話が盛り上がった。当然、僕の転職の話もしたが、サーキットデビューの話も当然した。ところが・・・・、サーキットデビューの話をいくらしても、太田さんがいかにすごい人か、という話をしても、彼の受け答えは「ふ〜ん。」程度だったんだ。僕にとってはそれこそ天地がひっくり返るぐらいの体験で、太田さんやその他の異次元人がどんなにすごい人か語ったつもりだったが、彼の反応は「ふ〜ん。」程度で、話題は他にうつっていった。

そんなものかもしれないな、と自覚した。だって、例えば、僕のその友人が、僕にとってはまったく興味の対象ではない、釣りの話をして、なんとかの魚が釣れた、とか、カリスマ船頭さんにいろいろ教えてくれた、とかの話を聞いたところで、僕の反応は、「ふ〜ん。」だったに違いない。でも、それはそれでいい。例えば日本人全員がレースに興味をもってしまったら、僕はサーキットで走ることがきっとできなくなってしまうもの。

だがしかし!僕と同様に、サーキットというものが「異次元」であった人、「異次元」である人に、僕の目をとおして異次元を疑似体験してほしい、僕自身も異次元体験をちゃんと記録に残しておきたい、そんな気持ちでブログを書いた。

僕ももう四十路。僕の仕事の世界では、僕はいっぱしのプロだと思ってる。仕事にはそれなりの自信はある。

昔、大学入試の浪人中に、予備校の先生が言ってくれたっけ。「アイデンティティーを持て!」僕はその意味がわからなかった。辞書を引いたら「自己同一性」。ますますわからなかった。でも、その後、大学にはいった後に海外留学して、「アイデンティティーを持て!」の意味がようやくわかった。僕は大学の時、○○大学の○○です、という自己紹介をしていた(当然だが、こういう自己紹介は合コンの場だ)。でも、それは、アイデンティティーではなく、僕の帰属を説明しているだけだ。○○大学、というのは、日本ではちっとは名の知れた大学名だから、それ以上の説明は必要なかった。でも、留学したら、東大以外の大学名を外国人は知らないから、○○大学から来ました、と言ったところで何の意味もない。だから、僕は、僕の独自性をアピールできる何かを模索した。会社にはいって社会人となった後も、僕が僕であることを主張できるように頑張ってきたつもりだった。留学もした。資格だって両手でも手に余る。自分の地位に安住せず、毎日毎日上を目指して勉強してきた。そんじょそこらのサラリーマンよりは、しっかり、自分がどう生きていこうか、と自己模索と努力を続けてきたつもりだ。そしてそれが自分のアイデンティティーだと思ってきた。

でも、この異次元空間では、僕が築き上げてきた僕のアイデンティティーは、まさに、ガラガラと音をたてて崩壊していき、ヨチヨチ歩きの幼児のごとく、いろんなことを一から覚えなければならなかった。まさに、「クラッシュ」だった。

この異次元体験は、今思っても夢のようだった。あこがれの「夢」という意味ではなく、今でも自分がそんな現場にいたなんて信じられない、という意味の「夢」。僕にとって、とても貴重な一日となった。単なる趣味ではなく、人生観を左右するとても大事な体験だった。

太田さん、江刺家さん、金子さん、中島さん、隠岐さん、ナミキさん、オヤジレーサーズの仲間たち、そして、その他今回いろんなことで知り合った方々。どうもありがとう。僕は、今回の走行会がとてもとても貴重な体験になった。自分の人生さえ、考えされられる体験だった。

次回のアルファロメオチャレンジは9月にあるらしい。僕はレースには出る気はないし、出る、といったところで太田さんが認めてくれるとは思えないが、走行会には参加したいと思う。僕はホッケーチームでは唯一のゴールキーパーだから、試合の日程と走行会の日程が重ならないことを祈ってやまないが、重なってしまったら、ホッケーチームのみんなに謝って、走行会に参加したいと思う。それほど貴重な体験だったから。そして、次の走行会でも僕も、僕の愛車も、傷一つ付けずに帰ってくることを祈って・・・・。


長文にもかかわらず、ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。僕の体験を通して、みなさんが、この走行会を疑似体験できたことを願ってやみません。





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